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『平浦ファミリズム』 感想

 

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

遍柳一 (著), さかもと侑 (イラスト)

 

「それに前から思ってたんだ。俺たち兄弟の中で、姉気が一番、母さんに似てるなって」

 

読む手を止められない不思議な中毒性のある文体に、心に染み込むような静かな感動がある物語

 

家族がいれば、それでよかった。

五年前、ベンチャー企業の社長である母を亡くした平浦一慶。残されたのは、喧嘩っ早いトランスジェンダーの姉、オタクで引き籠りの妹、コミュ障でフリーターの父だった。かく言う一慶も、高校にもろくに通わず、母から受け継いだエンジニアとしての才能を活かし、ひとりアプリ開発に精を出す日々を送っていた。
そんな一慶をなんとか更生させようと、毎日のように電話をかけてくる担任の天野小春や、優等生であるがゆえ嫌々ながら彼にからんでくるクラスメイトの千条真理香。それぞれのエゴを押し付ける周囲に辟易しつつも、親のためにも高校くらいは卒業しようと中途半端に学校に通い続ける一慶。
そんなある日のこと、一慶は、いじめられていた小学生の女の子を偶然救ってあげたことが誤解を生み、児童暴行未遂の嫌疑をかけられ、学校側から退学処分を言い渡されてしまう。家族、教師、クラスメイト、様々な想いが交錯する中、一慶はずっと胸の奥底にひた隠してきた自分自身の心に、もう一度向き合わざるを得なくなる……。
『BLACK LAGOON』の著者・広江礼威氏も絶賛した珠玉の青春小説。

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★★☆ 8.5/10

 

感想

第11回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作、遍柳一先生の『平浦ファミリズム』の感想です。

とりあえずさすが対象受賞作といったところですかね。すごく面白かったです!!

 

この作品、文体がめちゃくちゃ好みです。読んでいて不思議な心地よさがありますね。

すごくクセがあるとか、はっちゃけてるとかとはではなく、まるで遍柳一節とでも言うような、読む手を止められない魅力があります

 

平浦家の家族の絆

ストーリーとしては『平浦ファミリズム』というタイトルそのままに、平浦家のお話です。もっと言うと、主人公である平浦さん家の一慶君の物語です。

 

序盤は主人公を中心としたした平浦家の説明、主人公の日常の生活が淡々と語られていきます。

いや、割とけっこうな出来事が立て続けにに起こってはいるんですが、家族以外には何事にも無関心な主人公が語り部なんでひたすら淡々と進んでいる印象ですね。

じゃあ面白くないのかというと、全くそんなことはない!!

 

序盤はひたすら平浦家の家族の絆と、それに反比例するような異質さ、そして何より主人公の異常さが目に止まります。

とにかくこの平浦家って普通じゃないんですよね。姉はトランスジェンダーのキャバ嬢だし、妹は引きこもり。父親は超天然で2周くらい周りとズレてるし。

でも一番異常なのは、一番普通っぽい主人公という……

この主人公、とにかく家族以外に興味がない。世間一般の当たり前とか、こうあるのが普通という、誰しも持ってる感覚が全く存在しません。

学校での言動というか、その心の在り方はちょっと寒気すら感じるほど一般人離れしています。全てがどうでもいいというか、一切興味を感じていない主人公はほとんど世捨て人か廃人みたいです。ただそういう世間体とかそういう余計な価値観を持たないからこそ、家族に対して何の偏見もなく味方でいられるのかなと。トランスジェンダーに悩んでた頃の姉に何気なく言った一言とかもう、最高です。

 

平浦家の家族の関係についても、世間一般から見たらあきらかにはみ出し者ばっかりの平浦家なんですが、主人公の視点で語られるとこれ以上ないくらい理想的な家族に思えるんですよね。

依存しあってるとかではなく、それが当たり前であるかのように皆が信頼し合ってる感じがすごくいいなと思いました。

マジでこの作者の方、新人とは思えないくらい文章力高いっすよ!

主人公以外の家族も、皆いい人たちで、姉にしろ妹にしろ父親にしろ問題ありまくりなんですが、根っこの部分では人として大事な部分を持ってるのが伝わってきます。

あと要所要所で多大な影響を感じさせる母親の偉大さがすごい。

 

肝心の主人公が家族以外に対しては人として大事な部分無くしてましたが……

 

主人公と周りの人々との絆

肝心の主人公が家族以外に対しては人として大事な部分無くしてると書きましたが、それを取り戻すのがこの作品のもう一つのテーマになっています。

これについては序盤はすごく良かったんですよ。

主人公と一般的な社会との価値観のズレを感じさせる描写を積み重ねていって、主人公の人としての欠陥のようなものを引き立たせる展開、そして家族もそれを危惧しているような描写で読者の心情を煽ってくるのとか素晴らしかったです。

それだけに、最後むりやり解決させたというか、主人公に心変わりさせた感が強かったのが残念でした。ページ的な問題かもですが、もう少し主人公が心の奥では周りの人達を信頼したがってるような描写を積み重ねていくような展開があったらなぁと思ってしまいます。

それでも十分面白かったのでかなり高い要求だとは思いますが……

たった一つの伏線

伏線に関してはこの作品、そこまで伏線と言えるほどの伏線は張ってないんですが、たったひとつだけ僕がめちゃくちゃ好きな張り方した伏線があります。

何かを書いちゃうと伏線の意味がなくなっちゃうので、ここでは伏せますが、

単純に父親の天然ぶりを伝えるための描写としてあまりにさらっと書かれていたあれが最後のカギになるとは、その部分を読んだ時は思いもしなかったです。

やっぱ伏線はそれと分からないように張っておいて、回収の時に読者に感心させるような使い方をしてこそですね。……という伏線厨の戯言です。(えー

 

人としての在り方、人として大切なこととは

この作品読んでてずっと、「人として大切なことってなんですか」って問いかけられているようでした。

例えば、電車で老人に席を譲らない優等生と席を譲るギャル(もしくは不良)だったら、人としてどちらを評価すべきか。

そんなことについて終始考えされるような作品でした。

 

そしてこの作品を読んだ後は変な偏見はやめようと、いろんな人に優しくなろうと素直に思えるような素敵な物語でした。

あと個人的に最後の挿絵が最高です。これぞラノベのちから。

 

 

<個人的名言・名シーン>

「それに前から思ってたんだ。俺たち兄弟の中で、姉気が一番、母さんに似てるなって」

by平浦一慶

 

――その瞬間が来たら――
「迷わず振りぬく!!!」
by平浦一慶

 

 







 

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ーインフィニット・デンドログラム-4』 感想

 

『<Infinit Dendorogram>ーインフィニット・デンドログラム-4.フランクリンのゲーム』 (HJ文庫)

 

 

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★ 8/10

 

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感想

待ちに待った(別に発売が遅れたわけではないです。単純に待ち遠しかっただけ)『インフィニット・デンドログラム』……通称『デンドロ』4巻の感想です。

 

今巻ではついにドライフ皇国の陰謀が動き出し、おそらくは第1章の最終決戦とも言える展開に、プレイヤーの「誇り」や「矜持」をかけた熱いバトルの連続

この作品最大の魅力である圧倒的熱量を感じるストーリーでした!!

 

が、まさかの前後編分冊!?。まさに盛り上がり最高潮でこっからクライマックスってとこでto be continued!!?

それでも十分、いや十二分に面白いです!!

前後編分冊といっても今巻でそれぞれの戦いにはちゃんと決着がついており、残すは最終決戦のみといった感じ。

終わり方も思わせぶりな引きではなく、まさにここしかないというタイミングでで終わっています。

とりあえず前後編なら次巻を待つとか言わずに今すぐ読むべき!!

 

インフィニット・デンドログラムの真骨頂、熱量MAXの<マスター>同士のバトル

前巻の<超級>激突では、純粋に頂上決戦のバトル描写が熱かったですが、今回はまさにこの作品の真骨頂であるプレイヤーの「想い」をかけたバトルが見所です!

今回メインの戦いは主人公パーティの【奏楽王】ベルドルベル VS 【絶影】マリー、【高位操縦士】ユーゴ― VS 【女衒】ルーク、【大教授】ルランクリンの生み出したモンスター<RSK> vs 【聖騎士】レイの3つ。まさに主人公パーティ大活躍の回です。

そして要所要所で挟まれる彼らのリアルでのエピソードがまた読者をがんがん煽ってきます!!

 

個人的に最も好きなのは【奏楽王】ベルドルベル VS 【絶影】マリーの一戦ですね。というか前巻の番外編のエピソードからフランクリンへの一閃、そして【奏楽王】とのバトルと、とにかく僕の中でのマリー株のストップ高が続いています!ぶっちゃけ今デンドロで一押しのキャラかも。

逆にルークの方ですが、相手の裏をかく戦い方はすごく好みなんですが、ルーク本人が達観しすぎてるというか、人間味が薄くて個人的にはイマイチ感情移入できないのが惜しいところ。

レイとフランクリン(とうかフランクリンのモンスター)の戦いについては、戦い以上にその前のレイとフランクリンのやり取りが最高です。というかレイの青くさくも熱い言動が最高です!!

 

話逸れますが、このレイの青さと熱さが誰かを思い出させると思ったら「Fate」の士郎に似てるんだ……やっぱ正義の味方はこうでなくては!

 

 

今回は前後編の前編で、ほぼ一冊通してバトルの連続。ということで、総評というかまとめると、とにかく熱い!!

今巻の感想はこれに尽きると思います。

 

 

なんか次巻予告によると、今回は闘技場の決壊に阻まれてほぼ出番なしだったクマニーサンがいよいよ動き出すらしいです。

ついにあの<超級殺し>をも震撼させた、理不尽なまでに破壊の限りを尽くす暴走っぷりが炸裂するのか?……ちょっと期待です。

 

 

<個人的名言・名シーン>

「――邪魔なのでとっとと死んでください」

「――急くな聴衆。ゆるりと鎮魂歌を聞いていけ」

by マリー & ベルドルベル

 

フラミンゴ﹅﹅﹅﹅﹅、昨日の分も含めて借りを返させてもらうぜ」

「あっはっは、じゃあ私は先週の借りを返すよ。イヌミミ君﹅﹅﹅﹅﹅

by レイ & フランクリン

 

「――俺は、アンタを、ブン殴る。首を洗えよ、<超級スペリオル>」
「やってみろ……初心者ルーキー!」
by レイ & フランクリン

 

 

 

 

 

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『学園交渉人 法条真誠の華麗なる逆転劇 』 感想

 

学園交渉人 法条真誠の華麗なる逆転劇 (GA文庫)

柚本 悠斗 (著), 米山 舞 (イラスト)

 

謝辞などいらん。金を払え――

 

ひねくれ者の主人公と猪突猛進少女が織り成す、悪と正義の学園ドラマ! 

 

七千人が通い、生徒の自治によって運営される白楊中央学園には華々しい実績の裏に、ある掟が存在した。

それは「校則を破らない」こと。 一見当然のこのルールは学園の特殊性から、法律のような実効力を持っている。そんな学園において唯一、法条真誠という男だけが法外な報酬と引き換えに、校則すらもねじ曲げて依頼人の問題を解決していた。
とある事情で法条に借金をしてしまった少女、花咲華織は彼の助手を務めるうちに、法条の真意と学園の不自然な構造に気づいていく。

ひねくれ者だが有能な主人公と、猪突猛進なヒロインによる、驚愕の学園逆転劇、ここにスタート!

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★ 7/10

 

感想……の前に

作品の感想の前に一つだけ。

この『学園交渉人 法条真誠の華麗なる逆転劇』は作者の方が印税ぶち込んで色々宣伝したということでかなり話題になりました。

具体的には駅貼り広告したり、新宿アルタ前の大型ビジョンにPV流したりしたらしいです。

 

ラノベ作家さん、印税をすべて使い自腹で秋葉原や新宿、渋谷で自作品の宣伝動画を放映する模様

 

今回の宣伝活動について個人的な是非は置いておいて、CM効果としては大成功だったんじゃないでしょうか。

ぶち込んだ印税取り返せるかどうかはまでは分かりませんが、作品の認知度自体は相当上がったと思います。

ただ、一言言わせてもらうなら、

 

良い子は絶対マネすんな!!

 

いや、悪い子もマネしないで下さい、マジで!!

今回宣伝効果があったと言ったのは、別に大型ビジョンや駅貼りが効果あったんじゃなくて、印税ぶち込んだことが話題になっていろんなサイトやtwitterで取り上げられまくったからです。おそらく純粋な宣伝の効果と、その後いろんなサイトやtwitterで取り上げられたことによる宣伝効果を比較すると1:9では聞かないくらいの差があるんじゃないかと思いますね。

そして同じことをやっても、2回目以降は間違いなくほとんど話題になることなく爆死することになるでしょう。

こういうのは1発目にやって話題になるから意味があるんで、話題になったからマネするというのは愚の骨頂かと。

 

感想

いきなり感想と関係ないことを長々と書いてしましたが、ここからは純粋に作品の内容についてです。

 

内容としては金にド汚い主人公と純粋一直線なヒロインが、生徒に起こった問題の解決を依頼され、あっと驚く方法で解決していく。と言った感じです。

舞台が学園内に限定されてますが、依頼解決型の探偵ものと言った感じですかね。

 

登場人物の掛け合いが面白い

この作品を読んでまず思ったのがとにかくキャラが生き生きとしていてるなと

だから主人公とヒロイン達との掛け合いがめちゃくちゃ面白いです。

構図としてはひたすら主人公をいじりまくる主人公と、ひたすらツッコミまくるヒロインといった感じです。

このヒロインのリアクションとツッコミがかなりいい仕事してますね。

その他の主要人物も皆かなりいいキャラしてます。委員長のチョロさとか。

ただ後半は割と真面目な展開になっていくんですが、正直序盤~中盤のひたすらコミカルなシーンの方がキャラは生き生きしてたような気もします。

生徒会長だけは終始通常運転でしたが。

 

問題解決人 法条真誠

この作品のタイトルは「学園交渉人」ですが、内容としてどっちかっていうと「問題解決人」と言った方がしっくりくる気がします。

別段交渉もしてないですしね。

その問題の解決方法が中々にイカれてて面白いですね。特に1章はなんとなく予想がつきましたが、それでも笑いました……主にヒロインのリアクションに。

ただこれも後半ちょっとトーンダウンしたかなと。なんか徐々にマトモな解決方法になっていった気がします。個人的に1章みたいな頭悪い解決方法が好きというのもありますが。

あと、ラストの事件については、実は全部主人公か生徒会長の手のひらの上なのかなとか全部主人公が見透かして、ヒロインがそう行動するように仕向けたんじゃないかとか思ってたんですが、そういうわけでもなく、かなり肩透かしを食らった感があったのは残念な部分ですね。

 

正義と悪

この作品では何が「正義」で何が「悪」かという問いかけが一番のテーマになってるんですが、こういうテーマ自体が僕の大好物なんですごく良かったです。

また、主人公とヒロインのキャラクターを上手く使って描写しているなとも思いました。

純粋なヒロインは被害者の生徒に共感して味方になろうとするんですが、物事はそう単純ではなく……みたいな展開がいくつかあるんですが、この辺の描写の仕方がホント素晴らしかったです。

 

全体としてストーリーもさることながら、やっぱりキャラすごく魅力的で良かったなと。

不安なのは1巻の引き的に時間以降があるとしたら、今後シリアスに傾倒していきそうな気がするんですが、そこらへんコミカルな部分とのバランスを上手くとっていっていただきたいなと思います。とくにヒロインについては引き続きいじり倒してほしい……

 

 

 

<個人的名言・名シーン>

「始めるぞ」

 いつもより低く落ち着いたその声色に、華織が気を引き締めた瞬間だった――。

「五月女委員長!一昨日この女子生徒から取り上げたBL漫画を返してやって頂きたい!」

「……ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 引き締めたはずの華織の気持ちが砕け散った。

by法条 & 華織

 

 







 

 

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『りゅうおうのおしごと!』 6巻 感想

 

りゅうおうのおしごと! 6 (GA文庫)

白鳥 士郎 (著), しらび (イラスト)

 

将棋の神様は、将棋を愛する者に宿る

 

将棋に魂を、人生を懸けた者たちの熱い戦い

 

「重度のロリコンですね。治療法は死ぬしかありません」
竜王防衛を果たし、史上最年少で九段に昇った八一。二人の弟子も
女流棋士になれて順風満帆……と思いきや、新年早々問題発生!?
不眠症や変な夢に悩まされ、初詣で怪しげなおみくじを引き、初JS研
では小学生全員に告白され、弟子の棋士室デビューは大失敗。おまけ
にあいはロリコンを殺す服を着て既成事実を作ろうと迫る。殺す気か!!
そんな中、銀子は奨励会三段になるための大一番を迎えるが――

新キャラも大量に登場! 熱さ急上昇で新章突入の第6巻!!
新時代の将棋の歴史は、ここから始まる。

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★★☆ 8.5/10

 

感想

祝アニメ化!!

ある程度予想できてましたが、それでもおめでとうございます!

現実の藤井四段の活躍と合わせて、ラノベファン以外にも注目されるようなったらいいなと思います。

ストーリー的には面白さは間違いないですからね!

一般的にはちょっとロリコン成分高めすぎるのがネックかもですが……

 

 

 

そんなこんなで「このライトノベルがすごい! 2017」 で堂々文庫部門1位に輝いた『りゅうおうのおしごと』6巻の感想です。

 

展開としては5巻で主人公、九頭竜八一の竜王位防衛戦が終わり、物語としては一区切りがついた状態での新刊、

前巻が最終巻と言われても納得できるだけの内容と面白さだっただけにどうなるかとな思っていたんですが、予想通り物語としては第2部のスタートといった感じでした。

で、感想を一言でいうなら、今回もまた熱い!!

僕的にこの作品のジャンルはラブコメではなくスポ根もの、まあスポーツではないので正確には熱血将棋界ものと思ってるんですが、

この6巻でもまた、前巻とは違う将棋に魂を注いだ人達の人生を描いた、胸を焦がすような物語に心奪われること必至です!

 

姉弟子 空銀子の物語

前述したように前巻で八一の物語に一区切りがついたということで、それ以外の主要キャラ、今回は主に姉弟子こと空銀子の物語が中心となっています。

印象としては3巻の雰囲気が一番近いかなと思います。

話としては前回が竜王と名人の頂上決戦を描いていたのに対し、今回は一転プロを目指した奨励会での戦いがメインになります。

なんかこの対比がそのまま今の八一と姉弟子の立場を表していて面白いなと感じました。

そしてその姉弟子についてですが、プロ棋士(奨励会含む)の世界で天才達の中でもがき苦しむ凡人の苦悩がこれでもかと描かれていて、読んでいて切なくなるほどです!

境遇として3巻の桂香さんの苦悩と本当に近いものがありますね。

6巻読んだ後に3巻読み直すと、姉弟子のセリフ一つ一つに感情移入してしまってヤバいです。

桂香さんがあいや天衣との才能や将棋を始めた年齢の差に悩んでいたのと同様、姉弟子が周りの将棋星人達との才能と性別の差に追い詰められている様子には胸が締め付けられるような切なさがありました。

それくらい姉弟子の将棋に、八一に懸ける想いが熱いです!!

もうこれ姉弟子が主人公でいいんじゃね?って思えるほどに(えー

 

そして今回、桂香さんのように殻を破れたわけでも、何かに決着が着いたわけでもない姉弟子の物語が今後どうなっていくのか、第2部のメインテーマとして描いていってほしいくらい注目してます。なんとか、将棋の神様には銀子に祝福を与えてほしいと切に願います

 

余談ですが、巻を追う毎に姉弟子がかわいくなっている気がします。前巻で桂香さんに泣きじゃくる姉弟子も最高でしたが、6巻ではマジでかわいさ爆発してます

私服姿の挿絵とかマジ反則。個人的には4巻の釈迦堂さんの服着てる姿より好みです。

 

あと、姉弟子はお茶を入れるのは上手いらしくて「料理は壊滅的なのにお茶入れるのはうまいんだぁ」とか思ったんですが、その理由も地味にぐっときます。

 

師匠として八一が伝える最後の教え、天衣お嬢様の涙

姉弟子の奨励会の話と並行して語られているのが、八一とあい・天衣お嬢様の師弟としてのエピソードです。

正直いうと二人の棋士室デビュー・大盤解説のエピソードなんかは、あいと天衣お嬢様のKYっぷりに、おもしろいというよりちょっとムカムカしました。

すごい真面目なドキュメンタリーやスポーツの番組で、空気読まずにボケようとする新人の芸人見てるような感じに近いかなと。

ただ、それが後半の将棋の神様の話と八一から女流棋士になった二人へ伝える最後の教えへの伏線になっていて、この展開は本当に見事だなと思いました。

というか、第四譜の盤と駒の天衣お嬢様のエピソードはズルいです!!

第5巻で、天衣お嬢様がホントはすごく気の使える一途で優しい子だって知ってるだけに、あの展開であの涙であの挿絵はホント反則

真っ直ぐ素直でいい子に育ってほしい、八一の想いに心の底から共感できます。

そしてこのシーンの八一がこれまでで一番師匠としてかっこよかった気がします。

 

あいの将棋に対する想いについての疑問

まず最初にお断りを。あいちゃん好きの人はこの項目は読み飛ばしてもらうことをお勧めしておきます。割と厳しいこと言ってますので。

でもどうしてもこれは言っておきたいです!

 

この6巻、姉弟子と天衣お嬢様に関する部分だけで言えば、5巻に続いて10点満点を付けたいくらいにおもしろかったのですが……

たった一つだけ不満点が、というか納得いかない部分がある!!

それはあいの将棋に懸ける熱意についてです。

5巻でもちょっと感じてたんですが、この頃あいから1~3巻あたりで見られたような、将棋に対する真摯な姿勢というか、真剣さが伝わってこないんですよね。

なんか完全に八一>>>>将棋って感じに思えてしまいます。

たとえば大盤解説の時も、同じKY発言かましたといえ天衣お嬢様は終始将棋の話をしていたわけです。ただあいに関してはそもそも将棋の話なんて全くしてないわけですよ。はなから玉将と帝位という棋界トップの戦いよりも八一のことにしか興味がないと。読んでいてどうしてもそんな風に感じてしまいました。

その他にも八一以外のプロ棋士と将棋を指すことに興味がなかったり、姉弟子みたいな強くなるためならどんな努力も惜しまないっていう気迫・ハングリーさがいまいち感じられないんですよね。

 

今のあいの状態ってまさに、2巻で八一が危惧していた現状に満足している、幸せを感じてしまっている状態だと思うんですよ。

それどころか将棋が強くなることより、八一に振り向いてもらうことばっかり考えているようにすら感じます。

ホント2巻で天衣お嬢様と戦って自分の未熟さに涙を流してた時の気持ちを思い出してほしいです。

 

「もっと勉強すればよかった……! もっと強い人といっぱい将棋を指してもらえばよかった……! もっといっぱい詰将棋を解けばよかった……! もっともっと、他に何も考えられないくらい、将棋のことを考えなきゃいけなかったのに……!

 

こう思った当時の自分に胸を張って、今も将棋に取り組んでいると言えるのかと。

 

その辺八一も感じての第四譜の盤と駒のエピソードだったんだと思います。

その展開自体は納得ですし、「八一もよく言った!」と思いましたが、ただそれでもまだ温い!!

盤と駒のエピソードも天衣お嬢様のエピソードに比べると背景が弱いですし。

特に今回、姉弟子の想いと覚悟を知った後ではなおさらそう感じてしまいます。

 

ちょっと厳しい意見かなとも思いますが、僕は竜王のおしごとが大好きで、りゅうおうおしごとのキャラは皆好きでありたいと思います。

そしてりゅうおうおしごとで僕が一番キャラ輝いていると感じるのは、壁にぶつかってもがき苦しみながらもそれを乗り越えていく泥臭くて熱い展開です。

ぜひあいには2巻で描かれたようなような試練を、壁を乗り越えていくようなエピソードを期待したいです。

 

<おまけ>限定特装版の付録CD「空銀子☆生誕祭」

えー、ここからは限定特装版付録のドラマCDについての感想です。

内容的には銀子の誕生祝いで、こちら完全なラブコメ回ですね。そしてここでも姉弟子のかわいさが爆発してます

ただ姉弟子はもうちょっといい思いをしても罰は当たらないと思んですが……いや、かわいかったけど。

白鳥先生は姉弟子が嫌いなのか、好きな女の子はいじめたくなってしまうタイプなのか……

 

あとこっちだとまだあいがマトモなのも良かったですね。普通にツッコミ役してたし(えー

あいちゃんは八一の天然ラノベ主人公的な発言や行動に嫉妬してムッとしたり、ツッコんだりしてる方がかわいいと思います。

 

 

 

 

というわけで、笑いあり、涙あり、熱い展開ありと、アニメ化発表後の最新刊にふさわしい1冊だったと思います!

特装版のドラマCDも聞き応え十分ですよ!

ただ、一番泣けたのは本編と関係ない著者のあとがきでしたが……とにかくあのあとがき読んでの一言として、本当にアニメ化おめでとうございます!!

 

 

 

<個人的名言・名シーン>

「将棋の神様は、将棋を愛する者に宿る」

 だから盤や駒を大切にしなさいと。

 だから対局相手に敬意を払いなさいと。

 だからどんな対局でも心を込めて指しなさいと。

 だから……たくさんの人と、いっぱいいっぱい将棋を指しなさい、と

by 九頭竜八一 & 清滝師匠

 

八一に何かしてあげられるわけじゃない。八一に何かを与えてあげることもできない。

日光に当たるだけで壊れてしまうような出来損ないの身体と、将棋盤をくっきり思い浮かべることすらできないポンコツの脳。

それが私の全て。

だから私には将棋しかない

by 空銀子

 

 

 

 

 

 

 

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『86―エイティシックス―Ep.2 ―』 感想

 

86―エイティシックス―Ep.2 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈上〉 (電撃文庫)

安里 アサト (著), I-IV (デザイン), しらび (イラスト)

 

 

まだ全員、覚えている。今も彼らは共に在る。

連れていくと――戦い抜いたその果てまで、連れていくと約束した。

 

戦いの中でしか生き方を見いだせない死神たちの、誇り高くも哀しい物語

 

 

共和国の指揮官・レーナとの非業の別れの後、隣国ギアーデ連邦へとたどり着いたシンたち〈エイティシックス〉の面々は、ギアーデ連邦軍に保護され、一時の平穏を得る。
だが──彼らは戦場に戻ることを選んだ。連邦軍に志願し、再び地獄の最前線へと立った彼らは、『隣国からやってきた戦闘狂』と陰で囁かれながらも、シンの“能力”によって予見された〈レギオン〉の大攻勢に向けて戦い続ける。そしてその傍らには、彼らよりさらに若い、年端もいかぬ少女であり、新たな仲間である「フレデリカ・ローゼンフォルト」の姿もあった。
少年たちは、そして幼き少女はなぜ戦うのか。そして迫りくる〈レギオン〉の脅威を退ける術とは、果たして──?
シンとレーナの別れから、奇跡の邂逅へと至るまでの物語を描く、〈ギアーデ連邦編〉前編!
“──死神は、居るべき場所へと呼ばれる”

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★ 8/10

 

1巻感想はこちら →86―エイティシックス―』感想

 

感想

第23回電撃小説大賞≪大賞≫を受賞した『86―エイティシックス―』、その第2巻である『86―エイティシックス―Ep.2 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈上〉』の感想です。

そう、上巻です! ということでこの巻のエピローグとしては思いっきり次巻に続く的な感じのいいところで終わってます。(えー

戦闘的にも物語的にも1巻のような衝撃なや山場があるわけではないです。どちらかというと激動の1巻に対して、物語としては静かに進んでいく感じです。

が、それでもなお面白い!!

 

とりあえず1巻読んで面白かったという人は間違いなく読んでほしいです。

1巻と同様、でもある意味1巻とは全く違う視点で描かれたとも言える、エイティシックスの生き様を感じていただきたい!!

 

圧倒的な内面描写で描かれる登場人物たちの想い

僕が『86―エイティシックス―』で一番すごいと感じたのは、登場人物たちの気持ちがもろに心に響いてくるような、まさに圧倒的ともいえる内面描写です

前述したように特に山場があるわけでも、血が滾るような展開があったわけでもないのに、それでもこの巻を読んで、「やっぱこの作品は面白れぇな」と感じたのは、間違いなく登場人物の内面描写があまりにも秀逸だったからだと思います。

特にギアーデ連邦で穏やかな日々を過ごすエイティシックス達が感じる"ここが居場所じゃない”という感情、再び戦場へ戻ることへの決心、描写自体は比較的淡々とした雰囲気なんですが、それが無性に胸を締め付けてきます

特に戦場へ戻ることをギアーデ連邦の(暫定)大統領に告げるシーンのシンのセリフ、1巻を読んだ方にとってはこれ以上ない説得力だったのではないかと思います。

ええ、このシーン僕はちょっと泣きました……

 

1巻との対比、平和の中でのエイティシックスの異常性と気高くも哀しき在り方。

2巻を読んで感じたのが、エイティシックス達(正確には旧スピアヘッド部隊の面々ですが)について、1巻と対比して描かれているなということです。

1巻では僕を含めて多くの読者の方が、サンマグノリア共和国の異常性、白系種アルバのクズさの中での、エイティシックスの気高さを感じたことかと思います。

2巻では逆に、ギアーデ連邦というまともな国家、人々の中で、エイティシックスの異常性が浮き彫りにされているのが印象的でした。

とにかくこの対比が抜群に素晴らしいです!!

 

さらに言うと、1巻ではエイティシックスについて絶死の戦場での戦いを共用された奴隷のような立場でありながら、彼らは決して共和国に強要されたから戦っているのではない、戦場が居場所だから、戦うことが存在理由だからこそ自らの意志で戦っているのだと、心は決して縛られていないのだと訴えていたように感じます。

一方で2巻では、自由に人生を選択できる立場であったとしても、結局は戦場に戻ることを選ぶわけです。それが彼らの存在理由であり、戦場こそが彼らの居場所であるが故に。

正直このシーンを読んだ時は彼らの変わらぬ在り方に胸が熱くなったのですが、2巻を読み終えた後に改めて考えてみると、どこか一抹の哀しみを感じる選択でもあるなと。

あるいは「エイティシックス」としての生き方に囚われているのではないかと。

多分この後のストーリーとエルンストやフレデリカの心情がそういう気持ちにさせるんだと思うんですが、この辺りの描写や展開がホント上手いなと思います。

あっ、ちなみにエルンストとフレデリカって誰やねん!って方は本文読んで下さい(えー

 

いわば、1巻は哀しくも気高き存在として彼らを描いていたのに対し、2巻では気高くも哀しい存在として彼らを描写しているように感じました。

同じでありながらも違う、この対比の仕方は本当に凄いなと、賞賛に値すると思います。

 

本当の意味での物語の始まり

あらすじにもある通り、この物語は1巻における最終決戦とエピローグの間の物語です。

最初『86―エイティシックス―』の続巻の発売を知った時は、1巻エンディング、シンとレーナの再会後の物語が描かれるのかなと思ってました。だから正直あらすじを読んだときは、割と番外編的な位置づけなのかなとも思っていたんですが……甘い!蜜のように甘かった!!

 

むしろ2巻を読んだ後では、シン達がギアーデ連邦にたどり着いてからが『86―エイティシックス―』という物語の本当の始まりのようにすら感じてしまいます

もちろん1巻単独で読んだとしたら、それは間違いなく『86―エイティシックス―』として完璧な物語なんですが、不思議なことに2巻と合わせて読むと、読む前はエピローグの補完だと思っていた2巻からが本編で、1巻がプロローグだったように思えてきます。この文章力というか、物語の構成力は恐ろしいとすら感じますね。

 

で、この2巻を読んで思ったんですが、この『86―エイティシックス―』って多分今後人類とレギオンの戦いを描いていくことになると思うんですが、それと同時に彼ら「エイティシックス」が生きる意味を探す物語でもあるんじゃないかなとも感じました。

それがやっぱり戦いなのか、それとも戦場以外の居場所を見つけるのかは分かりませんが、彼らが戦い抜いた先に何を想うのか。それがこの物語の大きなテーマなんじゃないかなと思います。

 

だから下巻を早く!!

 

最後に一つだけ、いや、二つだけ不満を。

まずシン達の搭乗機についてですが、僕の好みとしてはレギンスレイブよりジャガーノートの方が無骨なデザインで好きでした。なぜあんな洗練された流線形になってしまったのか……

2つ目はマジどうでもいいと思われるかもですが、頭イラストのレーナのガーターベルトが見切れているのは何故だ!!(えー

 

 

<個人的名言・名シーン>

楽しいけれど。でも、やっぱりこの暮らしは、自分達にとってはひとときの夢だ。

夢はいずれ、醒めるものだ。

by クレナ

 

「もういいのか」

「うん。見なきゃいけないものは、全部見たと思う」

「帰ろう。あたし達のいるべきところに」

by シン & クレナ

 

おれ達はただ、運が良かっただけです」

「たまたま助けられただけなのに、それをいいことにこのまま足を止めていたら、戦い抜いて死んだあいつらに顔向けができない。まだおれたちは死んでいない。……まだ、戦い抜いたわけじゃない」

 まだ全員、覚えている。今も彼らは共に在る。

 連れていくと――戦い抜いたその果てまで、連れていくと約束した。

by シン

 

「それに、……先に行きますとか言っておいて、もし追いつかれたりしたら恰好悪いよな」

by ライデン

 

 

 

 

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『たったひとつの冴えた殺りかた』 感想

 

『たったひとつの冴えた殺りかた』 (HJ文庫)

三条ツバメ (著), 赤井てら (イラスト)

 

 

お前ら、人質ごっこの次は戦争ごっこをやらないか?

 

最強にクールでイカれた主人公が織り成すハードボイルド異能バトル!

 

異能力が売買され、個人が圧倒的な戦闘力を持つ時代。強力な異能が高額で取引されるなか、代金の支払いを滞納する者を追うための「債権回収機構」が組織されることになった。機構の凄腕エージェントであり、情け容赦無さで名高いノーマンはマフィアが支配する町バリオスにて高ランクの異能の滞納者の情報を得る。早速、相棒でありボスであるアイビスと共に異能回収に向かったノーマンだが、待ち受けていたのはマフィアの抗争だった。圧倒的なパワーで無慈悲に敵をなぎ倒す異能バトルアクション登場!

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★ 7.5/10

 

 

感想

第10回HJ文庫大賞「銀賞」受賞作、三条ツバメが描く『たったひとつの冴えた殺りかた』の感想です。

こちらの作品、タイトルのセンスが気に入っ発売前から割と注目してた作品の一つです。

そのタイトルですが、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.の名作SF小説『たったひとつの冴えたやりかた』のもじりですね。

ぶっちゃけ内容的には元ネタと全然関係ないですが……。

あと主人公の殺り方が冴えてるかと言われれば、むしろランボー並に大暴れしてるイメージですが……

ただ僕は、内容なんてあらすじを読めばいいからタイトルは語感とか響きがかっこよければいいと思ってるんで、そういう意味でこの作品のタイトルはけっこうツボでした。

どうでもいいけど、GOOGLEで検索する時、「たったひとつの冴えた殺」で検索するとちゃんとこの作品がヒットするのに「たったひとつの冴えた殺りかた」で検索すると元ネタのジェイムズ・ティプトリー・Jr.の作品ばっかり上位にきます……解せぬ。

 

肝心の内容の方ですが、とにかくハード!!

全編通してバトルの連続で、登場人物もほぼ男性(しかも大体おっさん!)。

人もガンガン死んでます。というか主人公がガンガン殺してます!!

女性受けとか萌えとか一切考慮してません!って感じの作風と展開が、管理人的にはたまらなく素敵でした!!

まだまだ粗削りかなと思う部分もありましたが、それを補って余りある勢いと熱量をこの作品からは感じます。

 

ちなみに管理人の持論に「渋い男キャラが活躍するラノベやアニメにほぼ(全部とは言わない)ハズレなし」というのがあるのですが、この作品もその持論から漏れることなく素晴らしい作品であると言いたい!!

 

 

異能を金で売買する世界。バトルものの王道である異能を使った斬新な設定

この作品、ラノベのバトルものでは超王道と言える現代異能バトルものに分類われると思いますが、結構設定がひねられていて面白いです。

まず異能についてなんですが、生まれつきの能力とか、魔術みたいに習得するものではなくて、金で売買する商品として扱われています。

要は金と権力を持ってる人間が戦力すらも手にする世界。

さらに異能は低い能力のものでも超高額で、買うのにローンを組むことができるのですが、払えなくなると回収屋に異能を取り立てられるという……

とにかくこの作品の世界観、フィクションなのに妙に生々しくてエグいです

なんとなくバクマンの『この世は金と知恵』を連想しますね。

こういうちょっとひねられた邪道な設定は大好物でした。

 

ただ異能を扱うのには当然適正や訓練も重要で、単純に強い異能を手に入れられれば、そのまま最強というわけではない。

だから世界を牛耳っている異能販売会社は自社に最強の異能部隊を抱えている。

この辺の異能の強さを表すクラスやら適正ランクやら各企業が抱えているランクSの異能力者やらって設定は燃え要素満載でワクワクしますね!!

 

ちょっと邪道ながらも上手く読者のツボを押さえていて、あらすじ読んだだけでも惹きつけられる世界観は見事だと思います。

 

主要登場人物の9割が男キャラという近年ラノベ史上屈指の硬派さ

冒頭述べた通りこの作品、登場人物の9割くらいは男キャラです。しかもBLな方々が喜びそうなイケメン王子様なキャラはほぼ皆無で、渋いおっさんだったり、腹黒そうなおっさんだったり、小物っぽいおっさんだったり……ほぼおっさんです。(えー

男キャラばっかりというより漢キャラばっかりというべきか……。

なんせ主人公のノーマンからしてやたら渋くてクールでダンディなおっさんですからね。いやかっこいいけど。

そんなわけでストーリーもラブコメ的なノリは一切なく、ひたすらバトル・バトル・バトルの連続で、とにかく主人公の戦闘凶っぷりとクールな仕事っぷりを堪能しろ!と言わんばかりのハードな展開が魅力です。

 

主人公の万能超人っぷりとクールな仕事人っぷり、イカれた戦闘凶っぷり

主人公のノーマンについて、著者の三条先生もtwitterなんかで発言されてましたが、とにかく無敵で最強なキャラとして描かれてます。

おまけに頭も切れて、ついでにチェスも強いという万能っぷり。

ノーマン自身もそれを自覚しており、言動や行動にも自信がみなぎってます。

その辺りを読者に自信過剰とかイヤミに感じさせることなく描写する三条先生の文章力は見事だと思いますね。

 

ちなみにこの主人公、敵のボスやら強敵を倒しても一切感慨にふけることなく、回収屋としての仕事を優先するクールっぷりと、自分に歯向かった場合は相手がマフィアだろうと、殺し屋派遣会社だろうと、一銭にもならなかろうと壊滅させるまで徹底的に追い込む戦闘凶っぷりとのギャップも魅力の一つかなと。

 

とにかく最近ではあまり見ないくらいの実力も性格も完璧で超人的な主人公だと思います。

個人的には俺Tueee系の主人公はこれくらい突き抜けているかひょうひょうとしていて、とにかく流されない・ブレないキャラの方が好みですね。

 

アイビスとノーマンの夫婦漫才のような掛け合い

何度も述べたように、この作品は息もつかせぬバトルの連続でとにかくハードな展開が魅力なのですが、そんな中で数少ない女性ヒロイン(AIですが)のアイビスと主人公のノーマンの掛け合いが面白くて、ハードな展開の息抜きとしていい役割を果たしてます。

いや、最初読む前はアイビスのことを有能で唯我独尊な女性上司とかボス的なキャラかと想像していたんですが(空の境界の燈子さんとかみたいな)、いざ読んでみると予想を裏切るポンコツっぷり!!

これはいい意味で期待を裏切られました!

このやたらとうるさく絡んでくるアイビスと、それをさらにやたらと雑に扱う主人公の掛け合い、クールだったり不愛想なキャラばっかりの中でのアイビスの空回りっぷりがとにかくおかしかったです。

 

物語としての完結性

シリーズの1巻についてどうしてついて回る問題として、単巻でのストーリーの完結性というのがあると思います。

あくまで1巻単独で読んでも読後にモヤモヤが残らないだけの伏線回収とストーリーが完結されているかっていうのは、管理人はこの部分結構重要視していて、読後感がどうであるかに大きく影響してくる部分でもあります。

その点、この作品はシリーズもののとして今後展開を広げられる要素をにおわせつつ、大枠の所ではストーリーをきっちりと完結させており、主人公の暴れた後のようにもやもやの残らない爽快な読後感でした

 

 

総評として、話の展開はしっかりとまとまっていつつひねりも効いており、キャラもしっかりと立っていて、全体的にレベルが高いという印象。

あと評価が分かれそうなのは華が少ない点ですが、作品の魅力とも言えるハードボイルドな世界観との両立を次巻以降期待したいですね。

さんざん男キャラが活躍する作風を褒めておいてあれですが、やっぱ華はほしいです。

せめてアイビスが生身だったら……(えー

管理人の嗜好は置いておいて、シリアスともコメディとも違う、まるでアメリカ映画でありそうなハードボイルドな作風がツボにはまる方にはぜひ読んでいただきたい作品でした。

 

超余談ですが、なんとなく若かりし頃のシュワちゃん主演で映画化とかしたら似合いそうとか思ったり……

 

 

<個人的名言・名シーン>

「ふふん、私の適応能力を甘く見てもらっちゃ困るのですよ。マフィアが何ぼのもんじゃいなので――」

「待てやコラァ!」

すがすがしい空気を引き裂いて、通りに怒声が響いた。

「ひぃ!なめた口きいてすいませんでしたなのです!」

by アイビス

 

「お前ら、人質ごっこの次は戦争ごっこをやらないか?」

by ノーマン

 

 

 

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『ラノベのプロ!2 初週実売1100部の打ち切り作家』 感想

 

『ラノベのプロ!2 初週実売1100部の打ち切り作家』(ファンタジア文庫)

  望 公太 (著), しらび (イラスト)

 

 

作家志望の中には「万人受けする作品じゃなくて、好きな人に思い切り刺さる作品を書きたい」という者が多いらしい。

けれど、そういうこと言う連中は――根本的なところで勘違いをしている。

幸せな勘違いをしている。

どうして――自分の作品が読んでもらえることを前提で話しているのか?

 

主人公と、彼に関わる人々が織り成す、熱血ラノベ業界ストーリー

 

「俺と、結婚してくれ」アシスタントで幼馴染みの結麻に、長年の秘めたる想いを告白した神陽太。もう二度とただの幼馴染み同士には戻れない。陽太の踏み出した一歩は二人の関係を決定的に変えていく―変わり始めた関係の気恥ずかしさに悶える陽太だが…一方で“業界の不条理さ”から後輩・小太郎を救う特訓を始めて!?残業代なしで多忙を極める、ラノベ作家青春ラブコメ!

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★ 8/10

 

感想

感想の前に、

この『ラノベのプロ!』の2巻ですが、度重なる延期によりようやく発売となりました。

1巻作中で主人公の弟子ノコタロウの作品が、イラストレーターの都合で延期を重ね、挿絵なしになるのではっていうネタなんか書かれているもんですから、まさかそれを自著で実行するつもりじゃなあるまいな?とか不安に駆られていたわけですが、無事(挿絵もしっかり入って)刊行される運びとなりました。

 

というくらい、1巻でもリアルかつ踏み込みまくった業界ネタが魅力だったわけですが、2巻でさらに大化けしたな!というのが管理人の率直な意見です。

ぶっちゃけ1巻読んだ時はラノベ業界事情の暴露本的な面白さはありましたが、ストーリーとしてはイマイチ盛り上がりにかけるなぁという印象だったんですよね。ラストでいきなり山場を迎えるわけですが、それまでのキャラの掘り下げも薄くて物語に没入できずに1巻が終わっちゃった感がありました。

 

そんなわけでこの2巻も業界ネタ部分目当てで買ったんですが、ストーリー自体が段違いに面白くなってました!!

もちろん業界ネタ部分も期待を裏切らないキレキレっぷりで、大満足の1冊でしたね!!

 

エッジの利いた切れ味抜群の業界ネタ

1巻の時からのこの作品の最大の魅力とも言えるのが、圧倒的にリアルで内容の濃い業界ネタでしょう。

今巻で主に取り上げられてるのは、書籍化の当たってのもろもろ(タイトルの改題やらサイン本やら)と、「打ち切り」についてですね。

正直読んでるこっちが大丈夫かと心配になるくらいリアル(と思われる)な業界事業が詳細に語られてます。

 

で、この業界ネタ部分についても僕が1巻から化けたなと思うのが、この業界ネタ部分のエピソードが上手くストーリーに活かされてるという点なんですよね。

「打ち切り」については今回のテーマそのものですし、なによりサイン本のエピソードで”ラノベ作家にとってはタダ働き"って話を上手く伏線として使ってるなと思いました。

伏線回収のシーンは個人的激熱ポイントの一つといっても過言ではないです!!

 

 改めてラノベの魅力に気づかせてくれる熱い展開

前述したように今回のテーマは打ち切りなわけですが、ラノベを書くことの苦しさ、素晴らしさを教えてくれるようなストーリーでした。

また今巻では皮肉屋だけど心は熱い主人公の魅力がこれでもかってくらい上手く活かされており、1巻時は中二病が抜けきっていないちょい痛い奴的な堪忍の評価がうなぎ上りのストーリーでもありました。

 

管理人は小説書かないですが、ラノベ作家志望の方や小説家になろうなんかのWEB作家の方にとっては、より胸が熱くなるような話なんじゃないかなと思います。

この作品のもう一つのメインである幼馴染とのラブコメ部分とのバランスも良かったですね。エピソードもやたらと初々しくて読んでるこっちが「とっとと結婚しろよ」と思えるようなほほえましさがあります。

 

改めて今回のエピソードは、ラノベ業界ものの作品の中でも、トップクラスに燃える展開かつ面白いお話でした!!

 

<個人的名言・名シーン>

「読者っていうのはね、優しいけど心底ビッチなんだ」

きみの作品を面白いって言ってる連中は。

他の作品にも同じようなこと言ってるよ。

by 亡月王

 

売れてない作品は、つまらないから売れてないわけではない。

読まれてすれいないから売れてないのだ。

by 神陽太

 

作家志望の中には「万人受けする作品じゃなくて、好きな人に思い切り刺さる作品を書きたい」という者が多いらしい。

けれど、そういうこと言う連中は――根本的なところで勘違いをしている。

幸せな勘違いをしている。

どうして――自分の作品が読んでもらえることを前提で話しているのか?

by 神陽太

 

「馬鹿野郎。俺はラノベ作家だぞ」

「サインなら、タダでいくらでも書いてやる」

by 神陽太

 

でもきっと。

プロとして生きることだけが、ラノベではないのだろう。

売り上げがラノベの全てじゃない。

アニメ化がラノベの全てじゃない。

一円にもならない原稿を百人足らずの読者に公開して、それで心から笑っている小太郎を見ていると、そんな綺麗事の全てを素直に信じられる気がした。

by 神陽太

 

 

 

 

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『桜色のレプリカ』 感想と紹介

 

『桜色のレプリカ』 (HJ文庫)

 翅田大介 (著), 町村こもり(イラスト)

 

――この「学校」の中に1人だけ「本当のヒロイン」がいる。
――その人を君に捜し出して欲しいんだ。

 

1巻丸ごと先行立ち読み

HJ文庫さんでちょっと面白い企画をやっていましたので、紹介もかねて。

その企画っていうのが8月1日に1,2巻同時発売となる『桜色のレプリカ』の1巻をまるまる立ち読みできるというものです。

企画の詳細については、HJ文庫さんのブログをご参照下さい。

『桜色のレプリカ』紹介記事

 

で、単純に無料っていうのに釣られたのと、こういう企画がどういう結果になるのか興味があったのと、一ラノベファンとしてこういう企画には協力してあげたいという思いっきり上から目線の考えから、全力で乗っかってみました。世間一般にそれを"乗せられた”というのは理解しますとも……

とりあえず、企画ものと思ってナメて読み始めたことを土下座して謝りたいくらいレベルの高い作品でした!!

 

……あれ?かりゆしブルー・ブルーの時も同じコメント書いてたな(えー

 

感想

せっかく無料なんで、とりあえず読んでほしいってことで今回は極力ネタバレなしで。

 

高いストーリー構成と文章力

話の隠し方と伏線の張り方、あと純粋に展開の仕方が上手い!と感じました。

最初は『さよならトライメライ」みたいなワケありの学園ものかなっと思って読んでたんですが……

確かに間違っていないんですが、予想していたのと違う方向性だったので思わず「おっ!?」っと唸ってしまいました。

物語としてはそこまで奇をてらったものではないんですが、その辺りの設定のタメ方とバラすタイミングとかが絶妙かなと思います。

あとは設定なんかの説明も必要なことはしっかりと書かれているけど、くどすぎない適度なバランスで良かったですね。

地の文読んでても、文章力は高いなと感じました。

最近読んだHJ文庫さんの作品の中では個性は少ないけど、レベルとしてはトップクラスに高いという印象。

作品の雰囲気も個人的にはかなり好きな感じです。

 

主要キャラについて

1巻にしては主要な登場人物が割と多めなんですが、あまり多すぎるという印象はないですね。

主人公の同僚である教師陣については出番が少ない分、一瞬誰だったっけ?となることもありましたが……メインキャラについてはしっかりとキャラが立ってるせいか、皆やたらと印象に残ります。

というか最初ちょっとあざとすぎるかなとも思ったんですが、そのキャラ設定すらも上手く伏線として生かされており、直に感心させられました

こういう伏線の使い方大好きですね!!

 

1,2巻同時発売、1巻丸ごと先行立ち読みという企画と作品について

こういう作品だったからこの企画が出来たのか、この企画があったからこういう作品を書いたのかは分かりませんが、1巻を読み終わった後の感想として「この作品ほど、この企画にふさわしい作品はないんじゃないかな」という印象です。

まずこの作品の1巻ですが、物語を起承転結で分けると、おそらくエンディングがちょうど承から転に切り替わるとこじゃないかと思います。ぶっちゃけ物語の革新一歩手前の一番続きが気になるところで終わってる感じです。これは確かに2巻を買ってでも読みたくなります!!

もう一つ、この作品、物語が動き出すまでの導入が結構長くて(それもこの作品のギミックなんですが、そのせいで1,2巻に分かれたんじゃないかという気がしないでもない)普通の立ち読み分くらいのページだとこの作品の本当の世界観を描写してる部分まで辿り着かなんじゃないかと。それならいっそ1巻部分をまるまる読ませるのも、この作品ならアリだなと思いました。

ようはHJ文庫さん、思い付きじゃなくしっかり考えての企画だったんだなと! それが言いたかった!!(えー

 

なんか失礼なことほざいてしまいましたがそれは置いといて、とにかく一度読んでみてほしいです。確かにいいところで終わっちゃって「8月まで長ぇよ!」ってなりますが、(えー

それを考慮しても面白い作品なんで読んで損はないかと。

なんせ無料ですからっ!無料っ!!(クドい……

 

 







 

 

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『かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月』 感想

 

『かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月』 (角川スニーカー文庫)

 カミツキレイニー (著), 白狼 (イラスト)

 

 

……だとしたら、僕の失った物語は、君を救うことができたのだろうか。

 

 

現代の日本を舞台にした、ちょっと不思議で、ちょっと切くて、どこか懐かしい青春ファンタジー

 

悪童〈ヤナワラバー〉が切り結ぶ、神様とのちょっと不思議な“縁”の話。

「人間の上でもなく、下でもなく。私たちのすぐそばにいるもの。それが沖縄の神々さ」
怪異を祓うため神々の住む島・白結木島を訪れた春秋の前に現れたのは、地元の少女、空。天真爛漫で島想い、どこまでもフリーダムな彼女に呆れる春秋だったが、空は神様との縁を切ることで怪異を祓う“花人”の後継者――春秋が島を訪れた理由そのものだった。未熟ながらも、島の人々とともに怪異解決に挑む少年少女の、沖縄青春ファンタジー!

★イラストシリーズ『蒼囲空』×カミツキレイニーの沖縄タッグが贈る、青春活劇!

 

八真八 真のおすすめ度・・・★★★★★★★★☆ 8.5/10

 

感想

この作品、普通のライトノベルと違って、イラストレーター白狼さんのイラストシリーズ「蒼囲空」にカミツキレイニーさんがストーリーをつけるという、一風変わった企画から生まれた物語となっています。

とはいっても、最初に企画ものと思ってナメて読み始めたことを土下座して謝りたいくらい面白い話でした!!

 

 

沖縄情緒あふれる作品の雰囲気

作品の舞台は沖縄のとある離島なんですが、読んでいて沖縄感?というのがすごく伝わってきます。

現代の日本が舞台なんですけど、異国感というか別世界感というか、なんとなく夏休みに田舎のおばあちゃん家にいったような雰囲気がこの作品にはあるなぁと思いました。

沖縄には数回しか行ったことがない僕ですら、沖縄の人々の気質とか生活とか、沖縄の離島ってこんな感じだよねって勝手に納得させられてしまう説得力がこの作品にはある気がします。

あとは海や空の青さ、太陽の日差しとか南国っぽい空気のにおいとか……作品を読んでいるとそこまで読者に伝わってくる気がして、これほど作品の舞台をリアルに感じされる表現力はすごいなと思いました。

余談ですが、けっこうライトノベルでこういう雰囲気の作品てあまり思い浮かばないですけど、PCゲームの『AIR』なんかに近いのかなと感じました。

(別に『AIR』は沖縄が舞台じゃないですが、夏の田舎の雰囲気みたいなのが)

さらにこれまた余談ですが、この作品の序盤は沖縄グルメ的な描写が頻繁に登用するんですが、飯テロ並に力の入った描写されてます。えぇ、この作品読んだ後ソーキそば喰いましたとも!!

ただ主人公はいなり寿司しか食べれないから、喰ったあとすぐ吐いちゃうんですけどね(えー

 

コメディとシリアスのバランス、物語の展開が見事

この作品、物語としては「起承転結」に沿ってしっかりと構成されているといった感じで、読んでて分かりやすいし、序盤のコミカルな展開から「転」部分からのシリアスなストーリーへの切替は見事という他ないですね!!

物語の導入部分を簡単に説明すると、いなり寿司以外の食べ物を口にできなくなる呪いにかかった主人公が、沖縄の花人はなんちゅという霊媒師に呪いを解いてもらうため、白結木島という沖縄の離島を訪れるところから始まります。ユタの弟子で花人見習いである空と出会い……って感じなんですが、序盤はコメディタッチのノリに軽快な文章とテンポで、グイグイ物語へ引っ張りこんできます。

物語の冒頭なんて、いきなり我慢しきれずソーキそばを喰った主人公がゲロるシーンから始まりますからね。(えー

その後なんやかんやあって主人公は空の花人の仕事を手伝うわけですが、この部分も宙の相棒の流威奈(♀)が股間に頭突き喰らったりと、コメディタッチで笑える感じに描かれています。

そこから一転、とある出来事がスイッチとなって物語が一気に動き出すわけですが、ここから急激にシリアスモードに突入していきます。ただ「起」「承」部分にしっかりと伏線が張られているおかげで、急激な切替に置いていかれることなく、すんなりと物語に没入することができました。この辺り、物語の完成度が高いなぁと感心させられますね!

そしてそこからの展開、空が花人をしている理由を語るシーン、そのあとの春秋が祟られた理由である犯した罪と過去についての独白、そしてそこから終盤までのたたみかけるようなストーリーは文句なしに素晴らしかったです!!

 

ちょっと切なくも爽やかな読後感

この物語の結末はほんのり切なさを含みつつも、爽やかな読後感を与えてくれます。それはおそらく登場人物たち、主人公の春秋やヒロインの空の心情がエンディングで晴れ晴れとしたものだったからだと思います。そして彼らがそうした心情に至ったのは序盤での島の人達や神様のと騒がしくてお祭りみたいな楽しい日々の思い出があったからなのかなと思ったり。

もうひとつ、ラストで主人公が空に、彼が思い至った「花人の資格」について語るんですが、このシーンもまた爽やかな読後感を後押ししている一つかなと。個人的には空の苦悩を笑い飛ばすような起死回生の結論だと思いますし、この作品の中でたまらなく好きな描写のひとつですね

 

イラストと物語と

ちょっと蛇足的な感想。

前述したとおり、この作品は白狼さんのイラストありきで作られた物語です。ようはヒロインの空のイラストが最初に合って、彼女のイラストに合わせて物語が作られたわけですが、僕が著者のカミツキレイニーさんすごいなぁ~と思ったのは、白狼さんがサイトで公開しているイラストでは体操服着てる割合が多いんですが、それを上手いこと物語の伏線に落とし込んでるんですよね。最初普通に白銀さんが体操服着たイラスト書いてるから、作中でも体操服着せてるんだと思ってしまいました。終盤で種明かしされた時は素直に感心しました。

 

→白銀さんのHP『白銀島

 

 

 

<個人的名言・名シーン>

「遊びなさい。たくさんたくさん楽しみなさい。自分の心の向くままにね」

(オバー)

 

―――『いいよ。どこにいる?』

それは花火を観に行こうとと言った、僕の最後のわがままに対する返信だった。

(春秋)

 

「春秋さんは人を好きになったんだ。傷つけるほど。傷つくほど。大切な物語だったんだ」

(空)

 

……だとしたら、僕の失った物語は、君を救うことができたのだろうか。

(春秋)

 

 

 

 

 

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『始まりの魔法使い 名前の時代』 感想

 

 

「ニーナ。魔法学校を作ろう」

 

「もっともっと大きく、もっともっと偉大な学校を」

 

圧倒的かつ壮大なスケールで紡がれる竜と魔法の年代記クロニクル

 

かつて神話の時代に、ひとりの魔術師がいました。彼は、“先生”と呼ばれ、言葉と文化を伝え、魔法を教えました。そんな彼を人々はこう呼びました。―始まりの魔法使い、と。そんな大層な存在ではないのだが―「だから火を吹かないで!」「ごめんごめん。私にとってはただの息だからさ」竜として転生した“私”は、エルフの少女・ニナとともに、この世界の魔法の理を解き明かすべく、魔法学校を建てることにした。そこで“私”は、初めての人間の生徒・アイと運命の出会いを果たした―。これは、永き時を生きる竜の魔法使いが、魔術や、国や、歴史を創りあげる、ファンタジークロニクル。

 

管理人のおすすめ度・・・★★★★★★★★ 9/10

 

データベース

 

感想

第1回 カクヨムWeb小説コンテスト受賞作、石之宮カント先生の『始まりの魔法使い 名前の時代』の感想です。

毎度のことながら多少のネタバレは含んでますのでご注意を。

 

この作品、とにかく世界観が壮大で、物語への没入感が圧倒的!!

その物語は原初の英雄の叙事詩のようであり、神話のようでもあり、壮大な物語の長い長い序章プロローグのようでもあります。

読み終わった後の感動と満足感、次に語られるであろう今後の歴史についての期待感、一つの物語としてもシリーズものの1巻としても、素晴らしいの一言に尽きます!

まさに純粋なファンタジーの神髄を感じたと言える作品ですね!!

 

 

壮大なスケールで描かれる人類と魔法の歴史、その始まりの物語

物語の第0話、この巻のプロローグは竜歴6050年、「始まりの魔法使い」の伝説を追ったドキュメンタリー番組を主人公(おそらく)と彼の生徒達?やらが見ているシーンから始まります。

この竜歴6050年、エルフや魔法が当たり前のように存在してるファンタジー世界ではありますが、TVやビデオなど、文明レベルは現代日本をほぼ同等という感じ。

で、そんな第0話から、本編のスタートは一気に竜歴0年に遡ります。

この作品は前述したように、主人公が異世界の竜に転生した竜歴0年から本編が始まり、後に「始まりの魔法使い」と言われる主人公に関わる出来事を、時代に沿って描いていく【年代記】の形式をとっているのですが、実はこの第0話、カクヨミに掲載されているWeb版にはない、書籍版の書き下ろしになっています。

ただ第0話があることによって、物語から感じる壮大さが段違いに大きく感じられます。

正直、この第0話から本編の導入、初めての生徒であるアイとの出会いまでを読んだ時と、1巻を読み終わった後にもう一度第0話を読んだ時は鳥肌が立つほどでしたね!!

 

本編についてはその初めての生徒であるアイとの関係を中心に、主人公が人と関り、魔法を通じて人の暮らしを変えていく様子が描かれていくわけですが、本編だけでも10数年、主人公の誕生からだと20年以上、エピローグも入れると50年以上にわたる物語が描かれています。

 

この作品は、世界に魔法を広めた主人公の「始まりの魔法使い」としての物語なわけです。

ただ、もちろん魔法そのものは、重要なキーアイテムであるとはいえ、あくまで物語を進めるうえでの一つの道具に過ぎないと感じました。

この作品の主題はの時を生きる主人公を通じた人類の歴史、現実世界で科学と共に進歩していった人の文明を、科学を魔法に置き換えた形で描いていくことじゃないかなと。そして主人公がその歴史の変遷にどのように携わり、人類の進歩に影響を与えたかを描いていく物語であると感じました。

 

ちなみに1巻開始時点における人々の生活は縄文時代~せいぜい古代並みで、文明と呼べるほのものはなく、国ではなく集落と呼べる程度のものが点在しており、また、集落によってはまともな言葉も存在しないようなレベルです。

そこに主人公が日本語を広め、葬儀などの文化を教え、文明をつくっていく。この描き方は非常に興味深かったですね。

ファンタジー作品では言葉だけは普通に通じるという設定はよくありますが、この作品では逆に、言葉さえないところに主人公が、ゼロから全てを広めていくわけです。だから第0話の未来において、当たり前のように日本語で話し、洗濯機やネギと言う言葉が存在し、通貨単位は「円」なんだなと。

そんなところからもいかに主人公が人類の成り立ち・歴史において重要な役割を果たしてきたのだということが伺い知ることができ、細かい設定まで物語に深みを持たせるよう、非常に練られているなと言う印象を受けます。

なんというか、読めば読むほど、細かいところに気づけば気づくほど、その世界観に圧倒されるような感覚でした

 

あと個人的にですが、もう一人のヒロイン、悠久の時を生きる主人公のパートナーのような存在として描かれているエルフのニナ(ニーナ)と、主人公の関係がすごくツボでした。

1巻作中では二人の関係性は「ほとんど」変わらないわけですが、そんな中でも少しずつニナの心情の変化が感じられ、ここでも第0話でちゃっかりと主人公の隣の席を確保しているニナの描写から、今後も続く長い長い物語における二人の関係を予感させられます。

 

 

一人の女性の生涯を描いた人生記でもあり、長い長いプロローグでもある第1巻

最後に、この1巻は、主人公の初めての生徒であるアイの物語でもあります。主人公と出会い、魔法を憶え、文化的な生活を知り、幸せを手に入れる彼女の人生が余すところ無く描かれています。いわば文庫本1冊の中に彼女の人生が凝縮されているのです。

だからだと思うのですが、たった1冊にもかかわらず、読み終わった際にはまるで長期連載作品が大円団を迎えたかのような感慨が込み上げてきます。

それぐらい、1冊の中での物語の完成度とスケール感がずば抜けて高かったと言いたいです!!

それと同時に、この1巻は「始まりの魔法使い」である主人公の伝説を描いた、壮大な物語の、とても長いプロローグでもあります。

この物語のラストは、主人公が本当の意味で魔法の学校を作ろうと決意するシーンで終わっているのですが、前述した感慨共に、第0話と合わせてこれから主人公が学校と言う舞台を通じて紡いでいく新たな物語を予感せずにはいられませんでした。

だからこそ、ここで再度言わせていただきたいと思います・・・・・・

この作品は他に類を見ないほど、圧倒的かつ壮大な世界感で描かれる一大叙事詩であると!!

 

 

名前の時代

最後にこの巻の副題である「名前の時代」について。

この巻で主人公が「この世界の魔法は名前でできている」ということを発見し、初めて魔法が魔法として誕生したわけです。

(それまで魔法は、生まれつき使える人だけがもった一種の才能・能力のようなものでした)

つまり魔法の歴史はここから始まったわけですが、この時代(巻)の魔法は全て「名前」によって成り立っています。

その他にも作中で度々「名前」というものが重要なキーワードとして登場してきます。

だからこその「名前の時代」という副題なんだと思います。

ただこれって、冒頭第0話の竜歴6050年で使われている、この時代の名称なんじゃないかなと。

私たちにとっての「弥生時代」や「古墳時代」と同じような感覚で、まだ名前だけが魔法の全てだった、魔法の始まりの時代のことを、

現代?では「名前の時代」と名付けているんじゃないだろうかという考えがふと思い浮かんだので、最後に余談みたいな感じで記載させていただきました。

 

<個人的名言・名シーン>

確かにテレビで語られる『始まりの魔法使い』はとても立派で、間違うことも失敗することもない、神様のような存在だ。

実際はそんなでなかったことを、わたしは良く知っている。

けれど、その苦労もまた、わたしたちは良く知っていた。

(???)

 

嬉しいのに、喜ばしいのに、胸の奥がぎゅっとして、息が上手くできない。

こんな気持ちにも、名前はあるのだろうか?

あいつなら、もしかしたら知ってるかもしれないけれど。

物知りな竜に尋ねるのは、もっとずっと後でいい。

(ニーナ)

 

「ニーナ。魔法学校を作ろう」

「もっともっと大きく、もっともっと偉大な学校を」

「この世界の誰もが知るような、そんな素晴らしい学校を、作るんだ」

(せんせい)

 

 







 

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